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◆狂言処=う舞謡~とは

 

 

狂言師が持つ、豊かな声の響きとあの洗練された身体は、どう生まれているのでしょうか。このワークショップは、演劇訓練の観点から狂言師の声と身体の仕組みを探り、和の声・和の身体の獲得を目指します。その興味は狂言そのものではなく、あくまで、狂言師の声と身体です。

 

皆さんは狂言師の声を耳にしたことがありますか? あの独特の口調と豊かな表現力はどこから来るのでしょうか? 狂言の起源は、今から約650年前の室町時代と言われており、元々は野外で上演されていました。今のようにマイクのない時代、野外で最後列のお客様まで台詞を届かせる為のテクニックとして、あのような独特の発声と台詞回しになったと言われています。

 

あの狂言独特の調子は「2文字上がり3段起こし」と呼ばれます。そういう環境の中で鍛えられて来た狂言師の声と表現力には、俳優として学ぶべきところが多くあります。

 

現代劇の俳優や声優の多くは、海外のメソッドで訓練を受ける事が一般的です。発声訓練は声楽家やボイストレーナーに、身体訓練はダンサーやパントマイマーに、演劇理論にしても、スタニスラフスキーやストラスバーグが主流です。もちろんその限りではありませんが、発声は謡いから、身体は舞や舞踊から、演劇理論は世阿弥から、などという俳優訓練を行っているところは聞いたことがありません。

 

どうして日本人は、もっと日本から学ばないのでしょうか? 海外から入って来た、理論や方法論は確かに素晴らしく体系化されています。ですが日本人には、日本人に合った声や身体があるように思うのです。狂言を学べば学ぶ程、日本には素晴らしい演劇があるじゃないかと思うのです。

 

僕は劇団を主宰する俳優です。ですが大蔵流狂言方・善竹十郎師の門弟として、狂言師としても、舞台に立たせて頂いております。僕が狂言を始めたキッカケは、発声の矯正、強い声を獲得する為でした。当時の僕は、舞台の度に声を枯らし、台詞はいつも掠れていました喉が弱いこともありましたが、声枯れの原因は発声の悪さにあったのです。声に関する本を読みあさり、声楽を学び、声に良いと思われることは何でもやりました。少しづつの成果は得ていたと思います、ですが、決定的な改善にはなりませんでした。そんな時に僕が出会ったのが「狂言」です。

 

狂言の稽古を始め、続けていく内、僕は決定的なことに気付きました。それは、腹(肚)の場所です。大きな声を出す時に決まって言われる言葉があります。「腹から声を出して!」決まり文句ですね。ですが、この「腹」がどこにあるのか? イメージが漠然としている方も多いかと思います。 知識としての腹、例えば「臍下丹田」という言葉を知ることは出来ても、己の身体にある「腹」を体感することは簡単ではありません。ところが狂言の「構え」の中には、しっかりとこの「腹」が「型」として組み込まれているのです。もちろん、僕自身、すぐにそれに気付いたわけではありません。ですがその「腹」を意識し始めてから、僕の声はすっかり枯れなくなったのです。

 

この「腹」こそが、このワークショップ最大の課題です。参加者の皆さんには、是非この「腹」を体得し、使いこなせるようになって欲しいと思います。時間は掛かりますが、強靭な声と豊かな響きへと繋がるテクニックです。

 

狂言を学ぶには、狂言師の家に入門するのが一番です。ですがそれはなかなか大変なことですし、もっと気軽に狂言のメソッドを学べる場所があっても良いと思うのです。そんな想いを形にしたのが、食事処ならぬ「狂言処」。定食屋の暖簾をくぐるように気軽に学べる場所としてオープンしました。

 

狂言のお稽古の基本は真似ぶ(学ぶ)こと。師匠の身体を鏡とし、ひたすら真似るわけです。その過程で僕は、これまで俳優として受けて来た様々な訓練の感覚で、狂言師の声と身体を探り始めました。面と軸の使い方、1軸と2軸の違い、重心の移動による身体操作、骨盤の向き、声の詰めと開き、正中と扇の骨の位置など、自分なりの理論に置き換えて整理して行きました。その過程で得た感覚と方法論が「う舞謡~」のメソッドです。

 

ワークショップでは、ウォーミングアップとして、2軸の関節運動、喉周りのエクササイズ、カラスメソッド。そして狂言の構え、台詞、足の運び、扇のサシ・ヒラキ、謡、小舞の順にワークを進めています。これは全て、皆さんの身体の中にある、深い筋肉群を目覚めさせる為のワークです。理想は、筋力ではなく、身体の使い方で動き、声を出す、それが僕が目指している「和の声・和の身体」です。

 

俳優や声優志望の方、講師や司会など仕事で声を使う方、和の声に興味のある一般の方まで、どなたでもご参加出来ます。声と身体のワークショップ「狂言処=う舞謡~」。先ずは、一度、暖簾をおくぐり下さいませ。ご来店をお待ちしております。

 

 

主催・指導:川野誠一

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