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​絵葉書の場所によせて

 演出:斉藤 貴

葉書の葉の由来はタラヨウという木だそうです。この木の葉っぱは裏に爪などでキズをつけると黒く変色することから、紙が普及する前の古代インドなどでは文字を記すのに使われていたとのこと。

 

言葉に “言霊” というのがあるように、文字にも “字魂” というものがあると思っています。もしくは “文魂” 。さらにはどうやって文字を打ち込むかで、魂の入れ具合も変わるじゃないかと。やはりキーボードのボタンを叩くよりもペンを握って実際に書く方が想いが入る気がするし、葉っぱに爪でキズをつけるなんていう行為はそれこそ魂を入れる行為そのもののような気がします。しかしながら、想いがあればそれできちんと相手に伝わるかというと、そうでもないところが、地球上の生物で唯一言葉をもってしまった我々のジレンマであり、最大の面白味ではないかと思うのです。想いが強すぎて逆に相手を傷つけてしまうなんてことはよくあることだし、相手だけではなく知らぬ間に自分自身を傷つけてしまっている場合も多々あり。情報だけを届けても人は納得しないし、感情だけを届けても理解できません。そんな複雑なバランスを保てなくて相手とのコミュニケーションに失敗してしまった場合、どうしても人は人に対して臆病になってしまったりします。それでも誰かしらと、そして自分自身とコミュニケーションをとっていかなければならないのです。

 

話をタラヨウの葉に戻せば、もともとキズをつけて刻み込んでいた魂。強引に言い換えれば、魂の生成にはキズはつきもの。逆に言えば、傷つかなければ魂は成り立たない。そんな登場人物たちの魂を私自身の胸に刻み込んで、本番まで想いを込めて育てていきたいと思います。

横浜国立大学教育学部卒後、劇団NLT附属俳優養成所に入所。同所を卒業後、矢崎滋の東京芝居倶楽部、フリーを経て2002年、劇団キンダースペースに入団。現在は同劇団の演出部に所属。作、演出活動の他、高校や公立文化施設及び自劇団での演劇ワークショップにファシリテーターとして数多く携わる。2013年3月、劇団キンダースペース退団。芸術表現活動とワークショップ事業を目的とした団体、Workshop works GRAVITONを立ち上げる。ドラマ教育においては、イギリスのミドルセックス大学教授ケネス・テイラー氏に師事。青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了(第7期)。劇団大樹では「カスタネットの月」「灯屋・うまの骨」(いづれもみ群作品)を演出。

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