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​『物語よりも世界を』

劇団大樹 主宰 川野誠一

2020年4月、新型コロナウィルスの猛威により、緊急事態宣言発令・・

多くの演劇公演が中止となり、この「半月カフェの出来事」も1年の延期を決断しました。

残念ながら同じキャストでの上演は叶いませんでしたが、劇団大樹は、再公演に向けスタートします!

 

今作「半月カフェの出来事」は、み群杏子さんが劇団大樹に書き下ろす2本目の新作であり、2009年に上演された「森蔭アパートメント」の続編となります。み群杏子さんのポエティックで大人のメルヘンとも言える作品を「演劇」として立ち上げる時、何より僕がこだわっているのは、物語より「世界」を立ち上げていくことです。み群さんは、言葉と印象の作家だと思っています。登場人物たちが喋る言葉には、言葉そのものの意味よりも、その言葉がもつ響きであったり、形であったりが、印象の姿で、絵のように物語に張り付いているように感じるのです。それは写実的な絵ではなく、印象派のような儚く薄いタッチで、時間と空間を飛び越え、人生の翳りと光を描写しているかのようです。彼女の物語を「物語」として立ち上げてしまうことは、僕にとって非常につまらない作業なのです。

 

劇団大樹のコンセプトは「物語より世界を」。それは演劇に絵画性を持ち込むと言ってもいいかも知れません。舞台というキャンバスにみ群杏子の世界を描くこと。額縁の中の絵の世界が、限りある空間に無限の想像を与えてくれるように、み群さんの描く人物たちの言葉に魔法を与えるには「額縁」が必要なのです。それが花と生演奏で彩るみ群杏子の世界です。劇団大樹では、音楽も効果音も全て生演奏で行います。また今回も、草月流華道家・横井紅炎さんの全面的な協力を得て、舞台空間に花美術をあしらいます。額縁から飛び出す植物の曲線は、夢と現の橋渡しをしてくれるかのようです。

 

上演作品の「半月カフェの出来事」は「森蔭アパートメント」から10年後の世界。童話作家の森蔭宏一郎は、作家として売れ始め、住人が少なくなったアパートメントは、人が集えるカフェに改装されています。庭の大きな樹の下には猫のムッシューのお墓があり、カフェを任されているのは当時中学生だったこまちゃんです。過去の住人とのエピソードを交えながら、月明かりは優しく密やかに、それぞれの想いに光を照らします。タイトルにある「半月」は、イギリスのハーフムーンストリート。前作「森蔭」の中で、宏一郎の祖父が迷い込んだ場所に由来します。すぐに形を変える「月」は西洋では、すぐ終わってしまうこと、気まぐれ者の象徴として語られます。そして、この物語の登場人物たちは、皆「半月」として描かれています。片割れを持たない者、離れてしまった者、失ってしまった者… 人の心は時が満ちれば満月となる「月」と違い、簡単には真円とはなりません。ですが人は常に真円であろうと日々を生きています。この「半月カフェの出来事」は、本の見開きが2つのページで出来ているように、片割れの者たちが連なり、ひとつのお話になって行く物語かも知れません。

 

孤独で傷つきやすい人たちを優しく見つめる、み群杏子さんの眼差し。その眼差しのひとつひとつに自身を投影した光や影があるのだろうかと思うと・・柔らかい月の光すら痛みを伴い、差し込んで来るような気がします。

1年の延期は作品を育てる良い期間になります。きっと素敵な作品に仕上げますので是非劇場にお運び下さい。

                                    

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