劇団大樹 第14回本公演
『半月カフェの出来事』
オフィシャルサイト
共催:星みずく・エターナルウィステリアアーツ
2021年6月9日(水)~13日(日)
於:小劇場 てあとるらぽう
『月の夜に何かが起こる?』
星みずく/共同プロデュース:み群杏子
川野さんから「森蔭アパートメントの続編をやりたいんです」とメールを頂いたちょうどその時、なんて偶然でしょう! 私も森蔭の続編を書きたいなぁと考えていました。
あれから10年。建物は建て替えの時期だろうな。建て替えるとしたらカフェなんてどうかな。持ち主が絵本作家だから絵本カフェ。当時の住人達はどうしてるかな。誰か残っていてほしいなあ。そして森蔭アパートメントの庭で行われた月夜の朗読会のこと。半月通り、半分の月…。月について考えているうちに浮かんできたのが、ポールオースターの「ムーンパレス」という小説でした。
ムーンパレスの主人公にはいつも天啓のように救いがやってきます。孤独でも、全てを失っても、救いはきっとあると思わせる「月」の存在。森蔭の続編の展開が見えてきました。そして月夜の森蔭アパートメントを想像していると、なぜか「人形」が踊りながら登場してくるのです。人形遣いと人形って、作者と登場人物の関係に似ているんじゃないかな。書いていて、登場人物たちが自分の思いと別のところで勝手に動き出す時があるんです。筆が走っているというか、不思議が横行しているというか、私にとって一番楽しい時です。人形も人形遣いの手を離れて自由に動き出す時があるかもしれない。とまあ、いろいろ考えながら「半月カフェの出来事」を書き上げました。
その上演が近づいた頃、コロナ禍で中止せざるを得なくなったという悲しい一報。こういう時だから仕方がないのかと、それでもあきらめきれない思いでいましたら「来年再挑戦できることになりました」と再び川野さんから連絡があり、本当に本当によかったと思いました。救いはきっとあるというムーンパレスの主人公の心境です。この大変な時期を乗り越え、皆さんの座組としての結束も深まって、作品をさらに大きく豊かに育ててくださることと楽しみにしています。
子供の頃から詩や童話を書いていたが、1991年、戯曲 「恋心のアドレス」 が、文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作を受賞し “劇作家” として活動を開始する。1992年にも 「ポプコーンの降る街」 が同賞を連続受賞。その後、Kiss-FM 「Story for Two」 のレギュラー執筆を担当。言葉のニュアンスを大切にしたポエティックな作風が特徴。生の悲しみおかしみを根底に持つ独特の作品世界を展開。2002年には、初の戯曲集 「微熱の箱」 が出版される。現在、自作をプロデュースするリーディングユニット 「星みずく」 を主宰。現在は劇団大樹の共同プロデューサーでもある。
『公演によせて』
合同会社エターナルウィステリアアーツ/共同プロデュース:長門薫
舞台美術は、劇場にご来場いただくお客様に最初に視界に入る作品の世界観を感じさせるものでしょう。
実は開場後に袖で聞いているお客様の感嘆の声は美術家にとって心地いいものです。まず第一歩の誘引に成功した証で、作品への集中を高める役割を担っているのだと考えます。大きな劇場と違って、小劇場は緞帳はない場合がほとんどで、舞台上がお客様に丸見えになっている事が当たり前ですので、その特性を念頭にプランニングします。かつて「森蔭アパートメント」という作品を川野さんが持ち込まれ、協賛させていただいたのですが、その前に出演していただいた拙著の「Night game..一夜の出来事」で、私の舞台美術に触れられて(無謀にも作・演出・美術・衣装まで担当した上に演者として舞台に立っていました)、舞台美術もやってほしいとのお申し出をいただき、がっぷり作品づくりに関わらせていただくことになり、草月流華道家・横井紅炎さんとタッグを組む舞台装置と花で、み群杏子さんの世界観を創り上げるスタイルが始まりました。そんな作品が10年の時を経て、新作として書き下ろされ、その10年後の物語として再び舞台装置を担当させていただく事となりました。10年後の森蔭アパートメントの世界観は、建物も更新され、半月カフェへと様変わりしていますが、歳月が変えてしまったもの、変わらないものが必ずあります。そんな作品となっていく事でしょう。
この10年間に劇団大樹の数作品に携わりましたが、都度刺激的な時間を過ごしてきました。プロデューサーとしての川野さんは作品に取り組む情熱、み群杏子作品の世界観に対する強い思い入れを持って熱く語ってくれますので、実はプランニングは楽だったりします。確かな技術をもった芸術家、クリエイターがその情熱に応え公演を支えています。私も今回、劇場主として、プロデュースに加わり、劇空間に作品の世界観を創り上げていきます。そして花を活けていただく器として、創作意欲を掻き立てる「静」の装置美術を創り、華道家・横井紅炎さんによって「生」の花美術が立ち上がっていきます。静かで生きている空間の中で「動」と「活」の役者と演奏者が、「彩」の照明家によって物語と奥行を広げてくれるでしょう。そうして文字の世界観は総合芸術、演劇として創り上げられ、ご覧いただくお客様の中で完成されていきます。
高校卒業後、海上自衛隊で航空機整備に7年従事し、退官後民間企業にて原子力、ロボット開発、ソフトウェアSEなど技術畑のエンジニアという異色の経歴を持ちながら、劇団あすなろ俳優養成所を修了後、劇団に所属し、演劇、映画、テレビの俳優として、劇団解散後は、演劇客演しながら、芸能プロダクションに所属していた。その間、舞台美術家、舞台監督、劇作家、俳優育成、演出などのスキルを磨き、2006年3月に妻で俳優の鈴木さちと共に自ら設計・施工・営業許可を取得したアトリエ劇場「てあとるらぽうを」開業。映画・テレビに出演しながら劇場運営と併設で立ち上げた個人事務所の経営、仲間と共にインディペンデント映画の制作するようになって撮影/編集のスキルを磨き、映像・演劇の全般に活躍の幅を広げ、2011年に法人成りし、合同会社エターナルウィステリアアーツの社長に就任。現在、演劇・映像の製作、舞台美術家、舞台監督、脚本、監督、動画撮影、編集、写真撮影など多岐にわたる顔を持つ俳優として活動している。劇団大樹ではこれまで「森蔭アパートメント」「マダムグラッセの家」「灯屋・うまの骨」「絵葉書の場所」の舞台装置を手掛ける。