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『ツキのある話』

 演出:斉藤 貴

月に叢雲 花に風。はずかしいことに、今までずっとこのことわざは日本の風流をあらわす、言わばポジティブなことわざだと思っていた。月は、雲の合間から見え隠れする方がその神秘性が増す。花は、風でゆらめき散りゆく姿がその可憐さをより伝えてくる。

 

が、本来は「好事には邪魔が入りやすく長続きしない」ということらしい。この定義からすると、好事とは「月がなんの邪魔もなく煌々と夜空を照らす」ことであり、「花がなんの障害もなく満々と咲き誇る」状態になる。

 

しかし月に関して言えば雲に隠されなくとも自分で欠けていき、その光量を落としていく。それはまるで自ら好事を手放していくかのように。

  

確かに好事がずっと続く状態であれば人はみな永遠に幸せかもしれない。ただし、それは「ずっと続く状態であれば」であって、「ずっと続けようとすれば」つまり「好事に執着しはじめる」とやっぱりどこかおかしくなって結果、「悪事」な状況が起こってしまうという理屈が通れば、自ら好事を手放す「月」とはなんと浮世の手本となる風物なんだろうと、あらためて思う。「手放す」こと、「執着する」ことが月の満ち欠けのように人の心の中を照らし、曇らせていく。そんな人間模様をこの「半月カフェの出来事」の登場人物たちと奏でていきたい。さらに叢雲をかぶせて神秘性あふれる「み群ワールド」の一端を担えれば、これ幸い。

斉藤写真.jpg

横浜国立大学教育学部卒後、劇団NLT附属俳優養成所に入所。同所を卒業後、矢崎滋の東京芝居倶楽部、フリーを経て2002年、劇団キンダースペースに入団。現在は同劇団の演出部に所属。作、演出活動の他、高校や公立文化施設及び自劇団での演劇ワークショップにファシリテーターとして数多く携わる。2013年3月、劇団キンダースペース退団。芸術表現活動とワークショップ事業を目的とした団体、Workshop works GRAVITONを立ち上げる。ドラマ教育においては、イギリスのミドルセックス大学教授ケネス・テイラー氏に師事。青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了(第7期)。劇団大樹では 「カスタネットの月」「灯屋・うまの骨」「絵葉書の場所」(いづれもみ群作品)を演出。

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