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脚本を読み終えて

 演出:篠原明夫(ザ・シノハラステージング)

僕も57歳。小うるさいオヤジと思われたくはないのですが、言葉を扱う一人として、昨今の言葉の乱れを気に病んでいます。過日、テレビでアナウンサーが「老舗の料亭は敷居が高くて入りにくいですね」と言っていました。この場合、高いのは敷居ではなくハードルです。敷居が高いという表現は、相手に無礼を働いてしまったので顔を合わせられないと言う意味なのです。それを嘆くと、中学生の娘が「パパ、言葉は時代と共に変化するものよ」と言いました。「確かにそれも正しい」と思いつつ「でもアナウンサーなら最後まで、正しい使い方にこだわって欲しい」という思いもあるのです。 先日、何とはなしにdアニメストアで『アルプスの少女ハイジ』を観ました。何故だか涙が出て来ました。その時は、ハイジのひたむきさなのか? 純粋さに、この少し荒んだ心が洗われたのかと思ったのですが『ひめごと2022』の脚本を拝読して分かったのです。言葉が美しいのです。僅か5歳のハイジの発する言葉が美しいのです。子供の頃は気にもならなかったハイジの言葉使い。きっと当時はもっと言葉が美しかったのでしょう。懐かしい日本人の言葉。僕は企業や学校でビジネスマナーの研修もさせて頂いているのですが、「でかい」「旨い」「超○○(一時は「めっちゃ○○」など変化しますね)」を使わないようにすると、心が穏やかになって、気持ちが優しくなって、顔に棘がなくなりますと伝えています。この『ひめごと2022』という作品は心と顔が優しくなるんです。家庭問題(いや、家庭だけではないですね)としてはなかなかヘビーな内容を扱っているのですが、言葉の力で心地良ささえ感じてしまうのです。 きっと僕の仕事は、この感じを壊さないように現実の人間を介して、舞台劇という一枚の絵画を完成させることにあるんだなと思っています。 

篠原写真②_edited.jpg

1965年5月17日生まれ。小学校4年生の時のお楽しみ会で作った3人芝居『桃太郎』がバカ受け。以来、芝居にハマる。演出家を目指し19歳で小劇団の門を叩くも音響を仕込まれる。23歳で退団し音響をしながら多くの演出家の技術を盗む。ホリプロ、オフィス北野、吉本興行などのお笑いライブのブレーンとしてライブを作る。26歳でシノハラステージングを旗揚げ。以来30年で100タイトル以上の舞台作品を作り続ける。池袋演劇祭で大賞を2度受賞、優秀賞3度受賞、他多くの演劇祭賞を受賞。東京アニメーター学院、東映アニメーション研究所、劇団若草など大手俳優養成所で指導者として立ち、近年では企業研修の世界で外務省、農水省、JTB、コクヨ、ジャパネット、山野美容専門学校などで指導している。米国ユニバーサルスタジオハリウッドに脚本を提供したことがちょっとした自慢。一人芝居から200人の群集劇、朗読劇からミュージカル、時代劇からSF、児童劇からストリップショーまで作品の振り幅は大きい。劇団大樹へは初参加。

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